2024年度連続講座 全7回の講義動画を公開しました

2024年度連続講座の全7回分の講義動画を、動画一覧ページにて一括公開しました。

ご視聴について

各回のテーマ・講師情報は動画ページに掲載しています。2025年度連続講座とあわせて、レジリエンス研究の全体像をご覧いただけます。

連続講座「2024 年度・レジリエンス―⼈間と社会の強靭性を考える」第6回開催レポート

第6回「レジリエンス経営科学研究寄附講座」では、著述家・評論家として、政治と⽂化芸術の関係を主なテーマに、近現代史・政治思想論など多彩な領域を横断的に論じる辻⽥真佐憲⽒が「AI時代の情報戦をどう考えるか」について講義を行いました。

近年、ウクライナ情勢や国際政治における認知戦・歴史戦への関⼼が急激に⾼まる⼀⽅、SNSや⽣成系AIの台頭によって、⼈々の⾏動や思考がどのように“操作”されうるのか――。そうした新たな問題状況の本質を読み解き、さらに「国⺠の物語」や「歴史観」とのつながりを多⾓的に論じます。

【開催概要】
⽇ 時:2025年2⽉15⽇(⼟)16:00-18:00
登壇者: 辻⽥ 真佐憲 京都⼤学経営管理⼤学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員准教授
テーマ: AI時代の情報戦をどう考えるか

講義の冒頭、辻⽥⽒はプロパガンダ概念の歴史を振り返りました。20世紀前半、第⼀次・第⼆次世界⼤戦を通じて、国家が⼤衆を組織的に動員する「宣伝活動」は⾮常に⼤きな破壊⼒を持つと恐れられていました。しかし、戦後は「限定効果論」が台頭する中で、「広告や宣伝が⼈々をそこまで劇的に操作できるわけではない」という⾒⽅が広がっていきました。それに伴い、プロパガンダは⼀時「古い⾔葉」として扱われてきたと辻田氏は話します。

ところが近年、ウクライナ侵攻をはじめとする国際紛争や各国の内政⼲渉などにより、再び「認知戦」や「情報戦」としてのプロパガンダが注⽬を浴びています。その理由の⼀つがSNS(ソーシャルメディア)の普及にあると辻田氏は言います。これまで国家や⼤⼿メディアといった「上からの情報発信」によって成り⽴ってきたプロパガンダは、今や「下からの参加」が容易となり、SNSを通じて個人が⾃発的に情報を拡散できるほど⼤きな影響⼒を持ちうるようになったのです。そしてもう⼀つがAI技術の急速な進展です。⽂章や映像、⾳声を瞬時に⼤量⽣成できる「⽣成系AI」の登場により、プロパガンダにかかるコストは極端に下がり、事実上誰でも⼤規模宣伝を⾏える環境が⽣まれつつあると辻田氏は指摘しました。

そうした変化の中で、社会的な問題となっているフェイクニュースや歴史修正主義に対してどのように対抗するかへ話題は移っていきます。従来、歴史修正主義やフェイクニュースへの対抗⼿段としては、史料検証やファクトチェックが重視されてきました。しかし、今やインターネットでは相⼿が「事実検証⾃体を拒否」する場合も多く、感情的インパクトや⾯⽩い物語を提⽰する側が⼈々の⽀持を得やすく、ファクトチェックだけでは⼗分に対抗しきれないという事態が起こっています。そこで、辻⽥⽒は歴史や政治への関⼼を喚起しつつ、過度な扇動に流されないための包括的視座が求められていると説きます。出来事をただ批判的・実証的に語るだけでなく、「それをどう位置づけるのか」を⽰し、⼈々が共感を持ち得るストーリーを提供するのです。

そうした事例として、海外では⾃国の歴史をどのように再編集しているかを⽰す具体例が紹介されました。アメリカでは、「星条旗」をめぐる物語にアフリカ系⼥性の貢献を追加し、多⺠族社会としての包摂を強調しています。シンガポールでは、⽇本軍の占領期を“共通の苦難”として取り上げることで、⺠族の多様性をまとめる新たな物語を提⽰しています。インドでは、モディ⾸相が評価の低かった独⽴運動家を再評価し、巨⼤な像の建⽴を通じて「強いインド」を再想像を目指していると言うのです。

これらは、国⺠国家の歴史が固定的ではなく、政治や社会の状況に応じて更新されうることを⽰唆しています。それに対して、辻⽥⽒は⽇本の「歴史の器」が不⾜しているのではないかと指摘します。日本には国家が全⾯的に関わるような⼤規模な国⽴の歴史博物館や追悼施設は他国に比べて少なく、そうした状況が異なる歴史観の対立を生み出している一端になっていると話します。

異なる歴史観の対立を解消するには、国家が歴史を整備し、合意形成を図る仕組みが不可⽋だとして、浜崎教授との対談に続いていきます。対談では、AIによるフェイク⽣成やSNS上の情報操作が加速する中、国⺠国家に共通する物語と多様な個⼈・中間共同体の柔軟性をどう両⽴させるかが焦点となります。例えば、⼆・⼆六事件の⻘年将校の⾏動を取り上げれば、同じ素材が「悲壮な正義のドラマ」とも「無謀なクーデター」とも解釈しうることになります。そこにAIの演出⼒が加われば、映像や⾳楽までもが瞬時に編集され、感情を刺激するプロパガンダが無制限に生成される危険性が⾼まるのです。こうした状況に対抗するためには、「個がバラバラになり、すべての情報をただ無差別に受容する」のでもなく、「国⺠全体が単⼀の物語に没⼊し、批判的視点を失う」のでもない、第三の道が必要だと議論を深めていきます。

国家レベルの器(追悼施設や歴史博物館など)と、地域や家族といった中間共同体での対話が両輪となり、歴史を冷静に検証しつつも、必要な象徴や儀礼を保つ形を模索することが、単なる“限定効果論”ではなく“しなやかに強靭なレジリエンス”を育む条件になっていくと締めくくりました。

第7回は、京都⼤学経営管理⼤学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員准教授・⼭⽥ 忠史⽒による「持続可能なビジネスとITーわが国の物流を題材としてー」となります。公開まで今しばらくお待ちください。

連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第5回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第 5 回「レジリエンス経営科学研究寄附講座」では、京都大学大学院地球環境学堂の山口敬太准教授による「現代社会における共同性を考える」というテーマで講義を行いました。建築・土木・哲学など多彩な領域を横断しながら「景観保全論」や「地域資源管理論」を探究する山口准教授が、社会の分断や画一化が進む現在だからこそ求められる“共同性”の再構築について、独自の視点で講義を行いました。

【開催概要】
日 時: 2024 年 12 月 21 日(土)16:00-18:00
登壇者: 山口 敬太 京都大学大学院地球環境学堂 准教授
プロフィール:専門は景観デザイン論、都市・地域再生論、公共空間のデザイン。地域固有の風土、歴史、文化、景観を手がかりに、地域課題の解決と人々の未来への意志や創造性に基づいた、都市・地域再生の戦略や公共空間のデザインのあり方を探る。
テーマ: 現代社会における共同性を考える

土地の記憶とまちづくり:住民参加型の地域再生に向けて

「土地の記憶」や「風景の文脈」が私たちの日常に深く作用しているにもかかわらず、その重要性に気づきにくい現状があるという指摘から講義は始まります。まちづくりを単なるインフラ整備や経済効率の問題に矮小化するのではなく、歴史・文化・習慣といった⻑期的な蓄積を丁寧に読み解くことこそが、本質的な基盤づくりに不可欠であると話しました。

オギュスタン・ベルクの「人間による風景の発見」や、和辻哲郎の「間柄的存在」という着想が、こうした視野を広げ、地域の景観保全に関する新たな意義を再確認させる理論的支柱となると山口准教授は述べます。特に和辻哲郎が主張する「間柄的存在」―家族や地域共同体、さらには自然環境との関係を通じて初めて自己を確立する―の見方をまちづくりに適用するときにこそ、現代の共同性が取り戻される余地があると山口准教授は説きました。

地域の景観保全や公共空間の活用を考える場合に、住⺠がそこでどのような記憶を重ね、日常的にどんな対話を交わしてきたかを丁寧に掘り起こすことが、本質的な解決策に繋がっていきます。山口准教授が携わってきた空き家再生や地域再生のプロジェクトでは、参加型のワークショップや社会実験を通じて、住⺠が「この建物にはこんな物語がある」「ここは家族との思い出が残る場所だ」などと語り合う場を設計し、新しい活用方法を実践しました。そのプロセスでこそ、新たなコミュニティの芽が生まれ、“しなやかな強靭性”が地域に根付いていくのです。ハードの整備や経済効率のみを優先する手法に偏ると、人間を取り巻く関係性という大切な基盤が見えなくなってしまうことに警鐘を鳴らしました。

講義の後半では、「なぜワークショップや社会実験が大切なのか」という問いについて深掘りをしていきます。人間は往々にして新しいプロジェクトや会議の場に身を置くだけでは動かず、自分自身が「面白い」「やってみたい」と感じたときにこそ、主体的な関わり方が生まれると山口准教授は話します。そうした自発性を高めるための仕掛けとして、遊び心や多様な人を巻き込むことを重視し、予期せぬアイデア同士が出会うとき、従来にはなかった創造力や連携が生まれていきます。何より、外部から投入される計画ではなく、住⺠の生活実感に寄り添いながら徐々に形を整えていくことが、まちづくりを息の⻑いものにする秘訣としても挙げられました。ハードとソフト、制度と自発性を同時並行でデザインする手法が、コミュニティを強靭化し、多層的な課題への対応力を高めるという見解を示しました。

まとめ

山口准教授が指し示したのは、「風土や景観をめぐる文脈を知的かつ創造的に読み解き、そこから住⺠が連帯するシステムを構築する」ことの重要性です。人間が本来的に備える“間柄性”を活かし、現代社会に豊かで多層的な共同性を取り戻すことを目指して、単なるノスタルジーや観光資源として過去を消費するのではなく、地道な対話と協働を重ねることで“分断を超える力”を培い、それがレジリエンスを高めるまちづくりにつながっていく。これは地域コミュニティを考えるすべての人にとっての指針となるはずです。

第 6 回は、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員准教授・辻田 真佐憲氏による「AI 時代の情報戦をどう考えるか」となります。公開まで今しばらくお待ちください。

連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第4回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第4回では、慶應義塾大学の岩尾俊兵准教授が「価値創造の民主化」をテーマに講義を行いました。岩尾准教授は、東京大学史上初の経営学博士号取得者であり、組織学会評議員や日本生産管理学会理事を歴任し、多数の学術賞を受賞。現在は慶應義塾大学商学部准教授として教鞭を執りながら、2024年11月には東証スタンダード市場上場企業の代表取締役社長に就任するなど、学術と実践の両面で活躍する気鋭の経営学者です。また『世界は経営でできている』(講談社現代新書)や『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)など、経営学の知見を一般読者向けにわかりやすく解説する著作を次々と発表していることでも知られています。

【開催概要】

日 時:2024年11月16日(土)16:00-18:00    
登壇者: 岩尾 俊兵 准教授(慶應義塾大学 商学部)
テーマ:カネの論理とヒトの論理:資本主義の再構築


岩尾准教授は、経営者と労働者の対立、世代間格差、企業不正、凶悪犯罪の増加など、今日の社会における様々な分断の根底には「価値有限」という発想があると指摘します。価値ある資源は限られており、奪い合うしかないという価値有限の考えが、対立を生み出しています。

しかし、地球そのものは数百万年間でほとんど変化していないにもかかわらず、経済は何百何億倍にも成長している事実は、価値創造には無限の可能性があることを示していると岩尾准教授は話しました。
価値が無限だと考えれば、他者は限られた資源を奪い合う敵ではなく、共に新しい価値を生み出すパートナーとなる。この観点から、「他者と自分を同時に幸せにすることを究極の目的として、対立を1つずつ解消し、豊かな共同体を作り上げること」を目指していくことが様々な問題の解決に繋がると話しました。

そして、戦後日本の経験を重要な事例として挙げます。戦後、多くの有形資産が失われた中で、人材が唯一の資源として、「人こそが価値の源泉」という信念に支えられた経営が行われ、高度経済成長を実現できた重要な要因となっていました。
しかし、平成以降、アメリカ式経営が持ち込まれたことで「金で金を生む」発想が強まり、人材は投資の対象から管理・監視の対象となっていった。その結果、日本国内への投資は減少し、代わりに日本は世界一の対外純資産を持つに至ったのだと岩尾准教授は話します。


この状況を打破するために、岩尾准教授は「価値創造の民主化」を提唱しました。これは、経営教育を多くの人々に広く薄く提供することで、誰もが価値創造の担い手となることを目指す考え方です。
たった一人が10倍優秀になるよりも、1000人が1%ずつ改善する方が、複利計算的に組織の成果は大きくなる。研究室の経営、病院の経営、家庭の経営など、経営の概念をあらゆる場面に適用することで、新しい形の豊かな共同体を作ることができると岩尾准教授は説きます。この「価値創造の民主化」は、金融資本主義的な『金の論理』と共産主義的な『人の論理』という二元論を超えて、無限の価値創造と無形の生産手段である知識の共有によって、みんなで豊かになる社会を実現する道筋を示していると強調しました。

最後に、経営学において最も困難な課題の一つは、組織の中で共通の目的を発見することだと岩尾准教授は話しました。しかし、人は「幸せになる」という共通目的を持っているはずで、その目的に向かう仲間として、新しい解決が実現できるのではないかと締めくくりました。

連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第3回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第3回「レジリエンス経営科学研究寄附講座」では、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授の白水靖郎氏による「公民連携の功罪」というテーマで講義を行いました。白水氏は、まちづくりや交通インフラ、さらには国土強靱化整備に関わる豊富な実務経験を基に、公的セクターと民間の協働(公民連携)が持つ可能性と課題について深く掘り下げました。

【開催概要】

日 時:2024年10月19日(土)16:00-18:00    
登壇者: 白水 靖郎 京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授
中央復建コンサルタンツ株式会社代表取締役社長
テーマ:公民連携の功罪


講義の冒頭、白水氏は公民連携を「単なる効率化やコスト削減を目的とする施策」ではなく、「地域社会が抱える課題を解決し、新たな価値を生み出す包括的な枠組み」として捉える必要性を説きました。このような視点は、特に公共交通やインフラ整備の分野で鍵となります。

公共交通が単なる移動手段として機能するだけでなく、地域全体の活性化や持続可能なまちづくりに寄与するべきだという考え方は、講義全体を貫く主要なテーマとなりました。

白水氏が携わった宇都宮市の次世代型路面電車(LRT)プロジェクトは、公共交通を「公共事業」として捉え直す好例として講義で取り上げられました。このプロジェクトでは、交通インフラを単なる移動手段ではなく、地域全体のまちづくりを目的とした包括的な政策として位置付けています。その背後には、公共政策としての主体性と長期的なビジョンがありました。特に、住民との合意形成や需要予測の見直しといった取り組みは、プロジェクトを成功に導くための重要な戦略として紹介されました。これらの実践は、公共政策の有効性を高めると同時に、地域社会の持続可能な発展を実現するうえで大きな意義を持つと強調されました。

宇都宮市の事例に続き、京都丹後鉄道の再生プロジェクトや女川町の震災復興計画が取り上げられ、公民連携が都市部と地方のそれぞれでどのように展開されるかが示されました。これらの事例では、公的セクターが主体的に基盤を整備しつつ、民間が柔軟なアイデアを活用して運営を担うことで、持続可能な発展を目指すモデルが提案されています。

講義の後半では、白水氏は、公民連携における現行の制度的課題についても言及しました。特に、日本では「公的セクターが負担すべきリスクを民間に過剰に転嫁する構造」が、多くのプロジェクトの停滞や失敗を招いていると指摘しました。この点を克服するためには、公的セクターがリスクを適切に管理し、必要な運営費を事前補助する仕組みを構築することが重要だと話します。最後に、必要な公共サービスが収益性の観点で廃止されてしまわないように、民間に委託したものであっても、公的セクターが責任を果たし、全体を適切に管理することで初めて公民連携が信頼性の高いフレームワークとして機能するとまとめました。

第4回は、慶應義塾大学商学部准教授・岩尾 俊兵氏による「カネの論理とヒトの論理:資本主義の再構築」となります。公開まで今しばらくお待ちください。

連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第2回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第2回講義では、京都大学大学院人間・環境学研究科の柴山桂太准教授が「グローバル化時代の複合危機」というテーマで講演を行いました。柴山准教授は、グローバル化が引き起こすさまざまな危機が複合的に重なり合い、現代社会において深刻な問題が生じている現状を解説し、こうした複合危機に対応するための「レジリエンス」の重要性について深く掘り下げました。

【開催概要】
日 時:2024年9月21日(土)16:00-18:00
登壇者:柴山 桂太 京都大学大学院人間・環境学研究科准教授
テーマ: グローバル化時代の複合危機


柴山准教授は、今日の世界経済が高度な相互依存関係により成り立っていることに触れ、リーマンショックやパンデミック、ウクライナ侵攻などのように、個々の危機が互いに連鎖し、単一の問題では収まらない「複合危機」へと発展する傾向が強まっていると指摘します。この新たな危機構造に対し、柴山准教授は、単なる成長や効率性の追求ではなく、レジリエンス(しなやかな強さ)を重視した社会構築が求められていると述べました。

従来の「選択と集中」による経済モデルは、グローバルなショックに対して脆弱であるとし、多様な産業基盤の維持が、社会全体の回復力や危機耐性を強化する鍵であると主張しました。

講義の後半では、柴山准教授は複合危機に対応するために、危機を総合的・包括的に捉える政策が必要であると指摘します。パンデミック対策においても、感染防止のみに留まらず、経済や教育など社会全般への影響を視野に入れた包括的な政策が求められているのです。また、グローバル化が進展することで多国籍企業や国際的なルールが影響力を持つようになり、国家が自国内の経済や政策を自由にコントロールしづらくなり、そのために国家の統治力が相対的に小さくなっていると言及しました。これらの危機の複雑化が進む中で政策の質と実行力を高める必要性があると強調しました。

危機の複雑化が進むほど完全な予防が難しいことから、社会や個人に求められるのが「精神的強靭性」になります。心理学のレジリエンス研究に示唆されるように、逆境を乗り越えた人々がその経験を通じて、より高い幸福度を実現するケースがあります。同様に社会や国家においても、危機に立ち向かう「心の強さ」と「適応力」が重要であると柴山准教授は述べています。危機を前提とした「共存の姿勢」を持ち、負の影響を最小限に抑え、迅速に回復するための政策の必要性も訴えました。

第3回は、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授・白水 靖郎教授による「公民連携の功罪」となります。公開まで今しばらくお待ちください。

【講義動画を公開いたしました】京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座・主催 連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第1回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

【第1回】

日 時:2024年 8月24日(土) 16:00-18:00

登壇者:浜崎 洋介 京都大学経営管理大学院 レジリエンス経営科学研究寄附講座准教授、文芸批評家      

テーマ:現代の超克―戦後社会の脆弱性を乗り越えるために


第1回では、経営管理大学院の浜崎洋介特定准教授が講師を担当し、レジリエンスの基礎的な概念から解説を始め、日本におけるレジリエンスの問題が個人と国家のあり方と密接に関わってきたという歴史的な背景にまで話を広げました。

浜崎准教授は、レジリエンス(強靭性)は単なる「強さ」とは異なり、その本質は「しなやかさ」にあると話します。現代社会では予測可能で堅固なシステムづくりに注力してきましたが、それだけでは不十分であり、個人の挫折から自然災害、パンデミック、国際紛争、経済危機まで、様々な課題に対応するには「しなやかな強さ」が求められているのです。

レジリエンスの具体例として、昨年度開催された「京都大学レジリエンス・フェスティバル2023」において、レジリエンスを研究する他の専門家たちが指摘された自然災害、医療、経済の3つの分野を紹介しました。

自然災害のレジリエンスにおいては、効率性を重視した災害対策・復興支援によるインフラ投資の東京一極集中が加速している状況があります。そして、同時に国家の基礎となるインフラ整備について、長期的な国家ビジョンの欠如があると指摘されています。

医療分野では、社会の共通資本である医療の大部分を民間に委ねる特殊な構造が課題となっています。この市場原理に基づく運営が、過剰医療につながると指摘されています。

経済面は格差の拡大によって、階層間で価値観や考え方の相違が生じ、「日本国民」という共通認識に基づく建設的な議論や合意形成が困難になっています。その結果、階層間の対立が深刻化し、相互理解を欠いた社会の分断につながる可能性があります。

浜崎准教授は、日本のレジリエンスに関する重要な課題として日本人が国家や大局的な視点について、十分に議論できていないという点を強調しました。過去20~30年間、日本社会は個別の問題に対して場当たり的な対応を続ける一方で、国家全体を見据えた議論が不足し、この状況が現代日本が直面する様々な問題の根源になっているのではないか。さらに、日本には国家について深く考える思考法や、それを訓練する場が欠如していると述べ、国家と国民の適切な関係性を構築できない価値観があるのではないかと推測し、その起源を歴史的文脈の中で探っていきます。

さらに、後半には工学部の川端祐一郎准教授とともにレジリエンスへの関心の原点や、強靭性を追求することの意義について深く掘り下げ、参加者に新たな視点を提供しました。

第2回は、人間・環境学研究科・柴山 桂太准教授による「グローバル化時代の複合危機」となります。公開まで今しばらくお待ちください。

京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座・主催 連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」開催に寄せて

こんにちは、文芸批評家の浜崎洋介です。

 この度は、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座主催の連続講座、「レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」(2024年8月~2025年3月まで、基本的に月一回ずつ行う公開講義)開催に寄せて、メッセージを書いています。

ところで、研究室の名前にある「レジリエンス(強靭性)」ですが、よくいただく質問のひとつに、「それは単なる〈強さ〉と何が違うのですか?」というものがあります。

 なるほど、言われてみれば確かにそうで、漢字だけを見れば「強靭性」も「強さ」も大した違いはないように見えます。が、わざわざ私たちが「レジリエンス(強靭性)」と言っているのには、それなりの理由があります。

ポイントは、「しなやかさ」です。

 たとえば、英和辞典などを引いてもらえばすぐに分かることですが、Resilienceの原義は「回復力、立ち直る力、復活力、はね返り、とび返り、弾力性」です。それは、つまり単なる「強さ」や「堅固さ」を意味する言葉ではなく、むしろ困難や危機を引き受けながら、それをなお「しなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)」のことを指している言葉です。そこが、単なる「堅牢性」(Robustness=ロバストネス)と、「強靭性」(Resilience=レジリエンス)とを分ける点だと言っていいでしょう。

 たとえば、「堅牢性」と「強靭性」の違いを説明するためによく引かれるのが、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ(1621—1695年)の有名な寓話詩「樫と葦」の話です。

寓話のなかで、樫の木は自信満々に己の「堅牢さ」(Robustness=ロバストネス)を誇ります。自分は、頑丈で力強く、嵐にも抵抗することができるのだと。その一方で、樫の木から同情される葦は、たしかにちょっとした風にも曲がってしまい、一見、弱そうに見えます。が、葦は言うのです、「心配には及びません。…私は曲がりますが、折れはしません」と。そして、ある時、地平線の向こうから今までに経験したこともない嵐がやってきたとき、堅牢だった樫の木がポキッと折れてしまうのとは反対に、風(自然)に任せて柔軟に曲がる葦の方は、嵐が過ぎ去れば元の姿に戻っていたのでした。

 ある程度の風には耐えられるが、あまりに激しい暴風には耐え切れず、しかも、一度折れてしまえば二度と元には戻らない「堅牢性Robustness」。それに対して、ちょっとした風にも揺らぐが、しかし、嵐が過ぎ去ってしまえばすぐに元の姿に戻っている「強靭性Resilience」。フォンテーヌと同時代を生きたパスカルの言葉に、「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかし、それは考える葦である」というのがありますが、まさにパスカルの箴言も、フォンテーヌの寓話と同じように、一見、弱そうに見える人間の、その〈真の強さ〉を私たちに示し諭してくれているように思われます。

 にもかかわらず、これまで現代人は、自然における異常なもの、例外的なもの、偶然的なものの全てを排して、「ああすれば、こうなる」のシステムを構築しようとしてきました。そして、システムを堅牢にすればするほど、そのシステムによって逆に身動きができなくなっていっただけでなく、そのシステム依存の習い性によって、自らの「回復力」や「弾力性」——つまり「生きる力」——をも失ってきたのでした。しかし、そうなれば、大小様々な危機に際して——受験の失敗、事業の失敗、仕事の失敗(失業)などの個人レベルの危機から、地震・風水害等の自然災害、パンデミック(コロナ危機)、地政学的紛争リスク(ロシア—ウクライナ戦争、台湾危機)、世界同時不況(デフレとスタグフレーション)などの国家や社会における危機に際して——、私たちが、それに適切に対応することは難しいと言わなければなりません。

 では、私たちの「強靭性Resilience」を高めるためには何が必要なのか?

 それを総合的に考える場、それが、まさにこの「レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」の連続講座だと考えていただければと思います。そのため本講座は、文化、思想、哲学、歴史、経済、公共政策、経営、風土、交通・産業政策を専門とする先生方をお招きしながら、様々な視点から「レジリエンス」を議論していきたいと考えています。

 いや、そもそもレジリエンス研究とは、一つの視点によって切り取られたシステムの脆弱性を乗り越えようとする研究であり、そうである限りで、まさに、時と処と立場で様々に変化する「自然」に適応する柔軟性や、学際的で多様な視点を必要とする研究だと言っていいでしょう。

 そして、そうである以上、その成果に関しては、「レジリエンス」に関心がある方全てに等しく公開すると共に、この連続講座を纏まりのあるものにすべく、初回講義を担当している私自身が、全ての講義の司会役も担当させていただくことを考えております。  以下は、「申し込み方法」を含めた詳細となります。参加は無料。ご興味のある方は、是非、ご参加ください。

http://kyoto-resilience.com/cms/2024/07/16/2024%e5%b9%b4%e9%80%a3%e7%b6%9a%e8%ac%9b%e5%ba%a7%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80%e3%80%80/