連続講座「2025年度・レジリエンス━破綻と回復の境界」第3回講義レポート

京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座では、昨年度に引き続き、レジリエンスについて考える連続講座を開催します。今年度も各講義100人を超える方々からのお申し込みをいただき、改めて非常に多くの方が関心を寄せているテーマであることを再確認いたしました。ご参加できない方やもう一度講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第三回は安倍晋三内閣で元内閣官房参与を務めた本田悦朗氏の講義でした。本田氏は、現在の日本が抱える外国人に関する多くの課題、外国人労働者問題、オーバーツーリズム、外国人による不動産取得に関する問題等を挙げ、なぜ今、このような問題が噴出してきているのかと問い、それはグローバリズムに対して国家が消極的にしか介入してこなかったからだと指摘します。グローバリズムの綻びが見え始めた今、高市政権は、日本の風土、伝統、歴史に関わるこれらの問題に真正面から対処しようとしていると本田氏は言いました。

【開催概要】

日時: 2025年11月15日(土)16:00-18:00

登壇者: 本田 悦朗(経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授)

場所:京都大学吉田キャンパス 総合研究2号館1階 講義室1

テーマ: レジリエントな財政・金融政策

アベノミクスの教訓と「デフレという病」

高市首相は「アベノミクス」の基本路線を継承する方針を掲げていますが、そもそも「アベノミクス」とは、どのようなものだったのでしょうか。安倍政権のアドバイザーとしてその政策に携わった本田氏は、まずこの「アベノミクス」について振り返りました。

「アベノミクス」とは、第2次安倍晋三内閣が推進した経済政策です。安倍政権はデフレ脱却を目指し、物価安定目標2%を掲げ、日本銀行と連携して大胆な金融緩和政策を打ち出しました。それは、デフレの長期化が引き起こした人々のデフレマインド(将来への不安から消費や投資を控える心理状態)によって、需要が減り、物価が低迷していた日本の経済活動を活性化させるために打ち出した政策でした。

これにより物価は上がりはじめ、日本経済は回復の軌道に乗ったかのように見えました。しかし、2014年、2019年と2回の消費税増税が行われたため、安倍政権は完全なデフレ脱却を果たすことが出来ませんでした。この「増税による(経済回復の)失速」という苦い教訓が、現在の高市政権の経済政策の原点となっていると本田氏は述べます。

需要不足から供給不足へ ―高市政権の立ち位置

安倍政権が「デフレ脱却」を掲げてから約10年、今、コロナ直前の2019年よりも物価水準は上がっていると本田氏は指摘します。世界的なインフレの煽りを受け、物価上昇率は一時期4%にまで上昇し、現在でも2.9%程度を保っています。そのため、一部のエコノミストは「物価高抑制のために政策金利を上げるべきだ」と主張していますが、それは現状を見誤っていると本田氏は言います。

現在の物価上昇に対し、賃金の上昇がまだ追いついておらず、消費者の需要が落ち込むリスクが残っているからです。だからこそ、今行うべきは金利引き上げによる引き締めではなく、賃金上昇を確実なものにするための「後押し」であると本田氏は主張します。具体的には、設備投資やリカレント教育への支援を通じて、日本の「供給力(生産性)」を高めることです。

需要不足(デフレ)との戦いであった安倍政権とは異なり、高市政権はすでに「物価上昇」という経済活動の熱源がある状態からスタートできているため、その「追い風」を活かし、供給力を強化する成長戦略を取ることが可能であると述べます。

「責任ある積極財政」の真意

そして本田氏は、高市政権の成長戦略の中心にあるものこそ「積極財政」であると言います。高市首相は所信表明演説で、「責任ある積極財政を行う」と発言しましたが、本田氏はここで言う「責任」には二つの意味があると述べます。一つは「豊かさを実現する責任」、もう一つは「財政運営を持続可能なものにする責任」です。「豊かさを実現する責任」とは、国力を高めて国民生活を豊かにすること、「財政運営を持続可能なものにする責任」とは、日本の財政が破綻せずに将来も続くことへの信頼を指します。これまで財務省は、「日本の財政破綻」への過度な懸念により、歳入と支出のバランスをとることばかりを強調してきましたが、本来は「豊かさの実現」こそが財政の目的である、と本田氏は指摘します。

そもそも財政には、①公共財(国防・警察・消防・交通インフラ等、人々が共同で利用する生活基盤となるもの)を国が提供すること、②貧富の格差を是正すること、③経済を安定させること、という3つの重要な役割があります。高市政権では、特に③「経済を安定させる」ことを重視しており、将来への不安を希望に変えて「強く豊かな日本を作る」ことを目標に掲げ、そのために財政支出を活発化させ、景気対策を強化する「積極財政」を打ち出しているのです。

次に本田氏は日本の経済状況と国家の財政状況について、具体的なグラフや数値を取り上げながら説明されました。まず、物価関連指標の推移グラフを見ると、食料、エネルギーを除くCPI(消費者物価指数)は、現在、物価安定目標の2%に向かって収束しているのが分かります。また、エネルギー価格も一時期の上昇に比べると、だいぶ落ち着いています。問題は食料品の価格です。食料原材料の輸入価格の上昇はいまだ変わらず、小売価格の値上げが止まりません。本田氏は食料品の消費税のゼロ税率が一番効果的だと言います。

さらに日銀資金循環勘定のグラフを見ると、実はここ3年の財政状況は過去30年で最も改善しています。2025年の第二四半期に至っては財政が余剰になっています。一年を通してみると、マイナスかもしれませんが、短期間でも資金循環で財政余剰が生まれたことはいい傾向です。しかしそれはインフレだからです。インフレになると消費税収入が増えるため、政府の税収は増加する一方、家計は消費税を多く払わなければならず貧しくなるため、この傾向を素直に喜ぶことはできません。だからこそ、政府が黒字になっている分を国民に返すために、消費税のゼロ税率が必要だと本田氏は訴えます。

財政健全化のパラドックス―なぜ「黒字化目標」は失敗するのか

ここで本田氏はプライマリーバランスについて言及しました。これまで、政府は、財政の健全化を最優先課題とし、財政の持続性を考える上で、長い間プライマリーバランス(PB)という指標を重視してきました。簡単に言うと、これは国の税収等による歳入で歳出が賄われているかどうかを見る指標です。 アベノミクスを始めたころ、財務省は2020年までにPBを黒字化することを目標に掲げていましたが、これを達成することはできませんでした。

その最大の要因は、「PB黒字化そのものを目標にしてしまったこと」にあると本田氏は指摘します。 帳尻合わせの黒字化を目指すと、どうしても支出を減らす「緊縮財政」に走りがちになります。その結果、経済そのものが縮小し、元手となる税収が減ってしまう――。財政を健全化しようとして、かえって悪化させるという悪循環に陥っていたのです。 この悪循環から抜け出すためには、PBに代わる「真に有効な指標」を持つ必要があります。

成長を諦めない国家へ

では、縮小均衡を招くPBに代わり、何を指標にすべきでしょうか。本田氏は「政府債務対GDP比」を挙げます。これは経済規模(GDP)に対して借金がどれだけあるかを見る指標ですが、近年の日本はこの比率が右肩下がりで推移しており、財政は顕著に改善しています。また、この指標ではGDPも変数の一つであるため、GDPを増やすこと、つまり経済を成長させることも、国家の責任として明確化されるのです。有効な指標はまだまだたくさんありますが、大事なことはプライマリーバランスだけにこだわらず、様々な視点から財政状況を判断し、適切な政策を打ち出していくことだと述べました。

講義の最後、財務省は敵なのかという質問に対して、本田氏は「敵ではなく、協力体制を作ることは必ずできる」と話されました。また、昨今話題になっている脱成長などの思想に関しても、「なぜ成長する可能性があるのに、あきらめるのか」と話されます。資本主義社会に生きている限り、国家には経済を成長させる責任があり、そして高市政権はその責任を自覚しています。政治的な課題は山積みですが、これからの高市政権、日本経済への期待を込めて、講義は締めくくられました。

京都大学レジリエンス・フェスティバル2025開催のお知らせ

【開催趣旨】
ウクライナ戦争や中東・台湾危機、デフレやスタグフレーション、世界恐慌、パンデミックやワクチンによる世界的薬害問題、そして巨大災害……日本を取り巻く状況は、深刻極まりない危機に満ち満ちています。そんな中、どうにかこうにか生き残っていくためには、生き残っていく力、すなわちレジリエンス(resilience)が絶対に必要です。京都大学ではそんなレジリエンスの研究を、レジリエンス実践ユニットやレジリエンス経営科学研究寄附講座、そして藤井研究室等の様々な組織が連携する形で10年以上にわたって展開して参りました。
 そんな京都大学では、2022年から毎年、各界のスペシャリストの先生方に一堂に介して頂き、様々なレジリエンスについて徹底議論するシンポジウムを「レジリエンス・フェスティバル」として開催しております。
 参加は無料。是非、ご参加下さい。

【開催概要】
日 時:2025年12月21日(日)13:00〜18:00(開場12:30)
会 場:芝蘭会館 稲盛ホール(定員230名)
    [Googleマップ]
参加費:無料
共 催:京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座
    京都大学大学院都市社会工学専攻藤井聡研究室

【プログラム・登壇者(予定)】13:00 開会挨拶(藤井聡)
13:10 – 14:10 防衛と核武装(伊藤貫・小幡敏)
14:20 – 15:20 危機管理と経済政策(本田悦朗・藤井聡)
15:30 – 16:40 科学と医療行政(宮沢孝幸・藤井聡)
16:40 – 17:40 日米の「大転換」と、その政治思想(施光恒・浜崎洋介)
17:40 – 17:50 閉会挨拶(浜崎洋介)

【参加方法】
参加をご希望の方は、以下のGoogleフォームから、必要事項を送信ください。
申込フォーム:https://forms.gle/z7JaMvTBr2YGnogn8

オンラインで視聴される方は、「参加形式」でオンラインを選択してください。
複数人でご参加いただく場合は、参加者1名ごとにお申し込みいただく必要があります。メールアドレスも、1人1つご用意ください。
【その他】
・抽選ではありませんので、受付完了のメッセージが届いた方は、そのままご参加いただけます。
・定員に達した場合は申込みを締め切ります。
・ご入力いただいたメールアドレスには、本フェスの運営に係る情報のほか、後日、関連するイベントの等ご案内をお送りすることがございます。(本フェスの事務局と無関係な広告等をお送りすることはございません。)

【お問い合わせ】
京都大学藤井研究室 シンポジウム担当
symposium@trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp

連続講座「2025年度・レジリエンス━破綻と回復の境界」第2回講義レポート

京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座では、昨年度に引き続き、レジリエンスについて考える連続講座を開催します。今年度も各講義100人を超える方々からのお申し込みをいただき、改めて非常に多くの方が関心を寄せているテーマであることを再確認いたしました。ご参加できない方やもう一度講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第2回は中国思想・日本思想を専門とする大場一央氏による講義です。大場氏は、松平定信が行った寛政の改革を手がかりに、江戸社会がどのように危機へ向き合い、社会の立て直しを図ったのかを取り上げました。先代から続く社会のゆらぎに対し、定信がどのような視点で政策を構想したのか、そしてその背景にどのような思想的基盤があったのかが示され、江戸という時代のレジリエンスに光が当てられました。

【開催概要】

日時: 2025 年 10月 18 日(土)16:00-18:00

登壇者: 大場 一央(早稲田大学法学部 非常勤講師)

場所:京都大学吉田キャンパス 総合研究2号館1階 講義室1

テーマ: 松平定信の国家経営戦略−レジリエンスとしての「寛政の改革」

家康の国家構想と朱子学による国造り

大場氏は、徳川幕府の明確な国家統治プランについてから講義を始めました。そのプランとは、「すべての日本人が日本人として平等になり、日本中どこへ行っても日本を感じることができる“風景”を作り出すこと」でした。

それまでの日本には奴隷身分が存在しており、彼らは海外に売り飛ばされることもありました。奴隷身分を解放するために家康は、本百姓制を敷き、日本人の80%を農民にし、彼らに田畑を提供して開墾させることで、日本全国に農村地帯を作り、「日本」的な風景を広げていったのです。

さらに家康は、思想面でも日本の独自性を作り上げようとします。その時に協力を仰いだのが朱子学者である藤原惺窩と林羅山です。朱子学は一人一人の人間の幸福と社会の安定を考える学問です。人間はある文脈の中で必ず一定の「立場」に立ちます。父は子供の「父」という立場、教師は生徒の「教師」という立場に位置するように、この人間関係のことを「人倫」、その中で果たすべき役割を「倫理」と朱子学では言います。つまり、日々の生活の中で自らの役割を見出し、自分らしさを見つけることの重要性が説かれていたのです。

そして、この考えを用いて家康は日本を発展させようとしたのです。具体的に家康は、武士に対して人々の模範となり、人倫と倫理に基づいた国づくりをせよと命令しました。その結果、力による支配を当然としたそれまでの武士像とは異なり、高いモラルを備えた武士の姿が形づくられていきます。こうした価値観こそが、家康の段階で“日本という国の形と心”として整えられ、それ以降の政治にも継承されていったのです。

保科正之と新井白石:民富増進と貨幣改革

第四代将軍家綱に仕えた元会津藩主の朱子学者、保科正之は政治の理(「理」とは朱子学で物事の筋道という意味)を民富(庶民の財産)を増やしていくことだと考えました。正之は会津藩ですでに社倉法(倉庫に種もみや米を貯蔵させる)を実践し、飢饉のときにそれらを年金として利用したり、飢饉の際に低利率で貸し付けたりしていました。

江戸の大火の際には、江戸城再建に大反対し、庶民の生活の再建にこだわり、上野広小路や玉川上水、五街道、そして東廻り航路や西廻り航路などのインフラの整備に資金を投下しました。この日本全体のインフラ整備により、各地の名産品、家具などが広まり、「日本中どこへ行っても日本を感じることができる”風景”を作り出す」という家康の思想を継承しました。

保科正之を引き継いだ新井白石は第六代、第七代将軍に仕え、正徳の治を行いました。白石は学問、武芸を奨励し、武士の一層の洗練に努めました。かつての定説では、貨幣の純化によりデフレ政策を行い景気を悪化させたと誤解されていましたが、それは前任の荻原重秀が貨幣を増やし過ぎたことに起因した経済の混乱を抑えようとしたものでした。

荻原の政策により、庶民のマネーリテラシーは崩壊し、また農民が借金を返せず、都市に浮浪するようになり、本百姓制も崩壊しかけていました。そこで白石は、増えすぎた貨幣の最適化を目指して、金貨・銀貨を回収しながら、紙幣を発行することで、緩やかに経済を正常な状態へ戻そうとしたのです。しかしこの改革は途上に終わり、のち反白石派に担がれた第八代将軍吉宗が紙幣を発行せずして貨幣を回収してしまい、デフレ状態に陥ってしまいました。

享保の改革と田沼政治:倹約主義からバブルと格差へ

吉宗は、享保の改革で倹約令を出し、貨幣での取引を制限しようとします。米の年貢が収入源であった幕府にとって、貨幣での取引が増えて貨幣の価値が上がることで、米の価値、すなわち幕府の収入が下がってしまうためでした。さらに、年貢を増やすために、米の増産を目的に新田開発を行いました。この一連の政策は、幕府の財産だけに目を向け、民富を無視した、「財政再建主義」的なものでした。

吉宗の側近として活躍した田沼意次は吉宗路線を継承します。田沼は徹底した倹約令を行い、新田開発の一環で干拓事業を行います。さらに、デフレを克服するために、大量の銀を金と偽って発行し、それを民間の事業者にばらまきました。資本の増えた民間の事業者は年貢の運搬事業などに参入します。

これにより、幕府は非常にコストの高かった年貢の運搬を手放すことができましたが、庶民は余計な手数料を取られることになりました。商人だけが儲かり、物価上昇に苦しむ庶民の暮らしは貧しくなる一方でした。

農村では特に負担が重く、生活のために都市へ流出する人々が増え、都市には富が集中しました。結果として、都市では富裕商人と貧困層の格差が広がり、地方の衰退と都市の過密化が進んでいきました。こうした格差と農村の疲弊のなかで天明の大飢饉が起こり、社会は大混乱に陥りました。田沼は十分な対策を取れずに批判を浴び、こうして田沼時代は幕を閉じることになります。

定信の経済政策と社会改革

ここからいよいよ松平定信について講義が展開します。定信は徳川吉宗の孫にあたりますが、松平家の養子に出され、「厄介」者として育てられます。私物は紙入れだけしか許されず、学問を唯一の楽しみとしていました。1年で1000冊以上も読破する読書家であり、その暮らしの中で、自分自身という人間の居場所を考え、誰よりも立場に則り、誰よりも自分らしく生きようとしました。

天明の大飢饉の際、定信は白河藩の藩主で、社倉法を実践していた会津藩から米を輸送し、食料の供給に努めたことで、白河藩から餓死者は出ませんでした。また、定信も倹約令を行いましたが、吉宗が行ったものとは異なり、藩の無駄を徹底的に減らし、余った米や金を領民に配ったのです。

この一連の政策が幕府の目に留まり、幕府に登用された定信は倹約令を幕府でも実践し、大奥の予算を7割削るなど、政府の無駄を削減し、既得権益を排除します。また、囲米によって日本全国で社倉法を実践します。さらに、江戸で1600あった町に対して、日々の経費を節約させ、その節約分の7割を積み立てる七分積金を行いました。そして定信は、節約で捻出された資金を、田沼のように大商人に貸し出すのではなく、中小事業者、新規事業者に低利で貸し付けます。またその金利で今度は米を買い、浅草の米倉にため込みます。この米倉は備蓄食料として、2、3年で満杯になりました。定信が意識したのは人々がそれぞれの立場や役割の中で無理なく暮らしていける社会を取り戻すことでした。それは朱子学に基づいた家康の思想を継承したものであると、大場氏は家康からのつながりを強調します。

他方で、定信は大商人を力で押さえつけたり、彼らを淘汰したりすることを望んだわけではありませんでした。むしろ、米価の急激な変動を防ぐために、米相場の調査や分析を大商人に依頼し、社会の安定に協力させています。また、一定の負担を幕府に納めることを条件に、商人たちが自らの資金を商取引や融資に活かすことも認めました。大商人を潰して、その分を庶民に回すというゼロサム的な政策ではなく、社会全体が無理なく暮らせるように、経済と秩序のバランスを整えようとした政策だったのです。

心と学問による人づくりと将来への視野

何よりも心を重んじた定信は昌平坂学問所(湯島聖堂)を整備し、朱子学を庶民に学ばせました。学問の奨励により、江戸では空前の学問ブームが起こります。藩校や私塾、寺子屋が急増するのです。識字率も含めた学問のレベルが急上昇し、一人ひとりの思考力を上げることにも成功しました。この状態になって、定信は再び倹約令を出します。それは庶民に対して、「今一度必要なものは何かを考えよ」というメッセージであり、景気が良くなっているからこそ、国民のマネーリテラシーの向上に努めたのでした。

定信は経済政策にとどまらず国防政策でも、外国の脅威にいち早く気づき、海軍や陸軍の必要性を唱えます。およそ30年後にペリーが来航した際の定信の予想は、現実のものになったのです。そして、その時外交交渉を担った人材の多くが昌平坂学問所の出身者だったのです。

明治に入り、渋沢栄一が東京の近代化を行う際の資金には、定信が積み立てた七分積金を多く当てています。江戸から明治にかけての近代化は定信の遺伝子なしでは成し遂げることはできなかったかもしれません。こうしてみると、定信の政策、理念が日本の歴史、生き方に大きな影響を及ぼしていると最後に大場氏はまとめました。

現代の政治は国民に目を向けた政治を行っているか、また日本人としての当たり前の生活が立ち行かなくなっていないか、より良い未来について考えるきっかけになる講義でした。

連続講座「2025年度・レジリエンス━破綻と回復の境界」第1回講義レポート

京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座では、昨年度に引き続き、レジリエンスについて考える連続講座を開催します。今年度も各講義100人を超える方々からのお申し込みをいただき、改めて非常に多くの方が関心を寄せているテーマであることを再確認いたしました。ご参加できない方やもう一度講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

浜崎特定准教授による第一回の講義では、最初にレジリエンスの意味を概説した後、21世紀のポストリベラリズム社会がもたらす危機はどのようなものか、そしてそれを克服するヒントとなる、オープンダイアローグの考え方について述べられました。さらに、日本人へと視点を移し、いかにして自然な生き方を手に入れることができるのか、九鬼周造の哲学を援用しながら解説されました。

【開催概要】

日時: 2025 年 9 月 20 日(土)16:00-18:00

登壇者: 浜崎 洋介(京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座特定准教授、文芸批評家)

場所:京都大学吉田キャンパス 総合研究2号館1階 講義室1

テーマ: 「いき」とレジリエンス―「おのずから」と「みずから」の関係をめぐって

レジリエンスの定義:竹のような「しなやかさ」

浜崎洋介准教授は、講義の冒頭で「レジリエンスとは竹のようなしなやかさである」と定義しています。工学では外圧による歪みに耐えて復元する力として使われますが、准教授はそれを単なる「強さ」ではなく、「時間をかけて回復する生命的な力」として捉えます。破壊や損傷の後に再び立ち上がる力には、時間的な生成、すなわち生命の流れが内在しているというのです。

そのため、レジリエンスを「堅牢性(ロバストネス)」と訳すのは誤りであり、むしろ「しなやかさ」や「弾力性」と表現すべきだと述べます。「ポキッと折れてしまえばそれで終わりだが、竹のようにしなって元に戻る」と例え、心理学や生態学の文脈においてもこの概念が重要であると説きました 。

加えて、レジリエンスを支える条件として「多様性と冗長性」「モジュール性」「柔軟なフィードバック」という三つの要素を挙げます。これは、特定の価値観や構造に依存せず、複数の関係や可能性を保ち続ける力のことを指しています。選択と集中ではなく、あえて流動性を許容すること。そこに人間的な回復力の基盤があると強調しました。

現代社会の危機:リベラリズムが生んだ「硬直化」

続いて、現代社会の危機を「リベラリズムの硬直化」として分析します。アメリカの政治思想家パトリック・デニーンの議論を引用し、「リベラリズムは失敗した。それは実現できなかったからではなく、成功したために失敗した」と紹介しました。さらに、フランスの政治思想家であるアレクシ・ド・トクヴィルの論を用いながら、リベラリズムが徹底されると、自由と平等の追求が社会的連帯を解体し、結果的に個人を孤立へと導く――その構造的矛盾を指摘しています 。

リベラリズムによって身分や権力に基づいた制度や権威が「人為的な虚構」として相対化されることで、人々は自分を守ってくれるものを求めて再び国家や多数派に依存するようになる。こうして「自由を守るはずの思想」が「多数者の専制」へと転化するという皮肉が生まれると言うのです。

浜崎准教授は、コロナ禍で「感染予防」という一つの正義に社会全体が収斂し、異論を封じる空気が形成されたことを例に挙げ、「リベラリズムが生んだ新しい同調圧力」であると批判しました。自由を追い求めた結果、硬直化して、逆に社会の自由が失われていく。このパラドックスこそが現代の危機だと述べています。

その上で、個人を孤立させないために「中間共同体」の存在が不可欠だと語りました。家族、地域、宗教的結社など、国家でも個人でもない「間(あいだ)」にあるつながりを作る。そこには、目的や成果を超えて「共にあること」そのものを価値とする関係性が生まれます。浜崎准教授はこれを「目的なき共同体」と呼び、現代におけるレジリエンスの基盤と位置づけました。

回復の方法:オープンダイアローグ

こうした「目的なき共同体」を体現する実践として、フィンランドの精神医療「オープンダイアローグ」が紹介されました。1980年代、西ラップランド地方のゲロプダス病院で生まれたこの手法は、薬物投与や入院を最小限にし、患者・家族・医療者が対等に語り合うことを原則とします。

一般的な医療は、医師が上位に立ち、一方向的に治療方法を決定する構造が主流でしたが、オープンダイアローグは全員に「聞こえる場」で進みます。医師と看護師が患者の見えないところで、治療方針を決定するのではなく、患者の前で全員が意見を交わし、患者は「観察者」としてそのやりとりを聞きます 。

この「リフレクティング」と呼ばれる手法は、患者が自分に関する言葉を他者の声として聴き直す契機になります。これによって固定化された自己像がゆるみ、自分自身を捉えなすことができる回復のプロセスが始まるのです。

この仕組みを浜崎准教授は、対話そのものが治療であり、結論ではなく継続が目的であると説明しました。この「オープンダイアローグ」の思想的背景には、ロシアの文芸理論家ミハイル・バフチンの「ポリフォニー(多声性)」があると続けます。ポリフォニーとは、複数の声が同時に存在し、どれも絶対化されない状態を指します。この複数の声が響き合う開かれた対話空間が、実は人間を解放させるというのです。

対話には、あらかじめ目的や答えを設定しない勇気が必要です。偶然性に身を委ね、他者の言葉に揺さぶられながら関係を編み直していく。この「おのずから生まれる回復の力」が、浜崎准教授のいうレジリエンスに繋がっていきます。

日本的レジリエンス:「おのずから」と「みずから」の調和

講義の終盤では、こうした思想を日本的倫理の文脈に接続する試みが行われました。

ここで取り上げられたのが哲学者・九鬼周造です。九鬼は「粋(いき)」という美学概念を通して、日本の倫理や生のあり方を論じた人物でした。浜崎准教授は、九鬼が「生きていることそのものに開かれ、凝り固まらない態度」を「粋」と呼び、それを日本人が長年培ってきた生きる倫理としたと紹介しています。

その上で、九鬼の哲学の核心である「おのずから」と「みずから」の関係に着目します。「おのずから」を自然発生的な他力性、「みずから」を意志的な自力性として説明します。「他力だけでは依存に陥るが、自力だけでも限界に突き当たる」と述べ、どちらか一方に偏ると人間は不完全になるため、自力と他力の往還の中に人間の成熟があると指摘しました。

つまり、人は「みずから」を徹底したときに初めてその限界に気づき、「おのずから」に開かれる。その後、再び「みずから生きる」地点に戻ってくる――この循環こそが倫理の核心だといいます 。

この「おのずから」と「みずから」の調和は、まさにレジリエンスの本質であるというのです。意志と自然、計画と偶然、自己と他者のあいだに生まれる柔軟な関係。それは、竹のように風にしなりながらも根を張って立つ姿に重なります。

講義は、レジリエンスが単に外部の力に耐えることではなく、しなやかに回復し続ける「生きる」ことそのものの倫理であるという視座を示す形で締めくくられました。

宮川愛由先生が第72回土木計画学研究発表会・秋大会で発表されます

本講座の宮川愛由先生が、第72回土木計画学研究発表会・秋大会において研究発表を行います。

発表テーマ

インフラ・都市システムのレジリエンス評価に関する最新の研究成果を報告予定です。講座の研究活動の一端として、ぜひご関心のある方は学会プログラムをご確認ください。

学会情報
学会名 第72回土木計画学研究発表会・秋大会
発表者 宮川愛由 先生

詳細は関連ニュース記事もあわせてご覧ください。

宮川愛由先生が第72回土木計画学研究発表会・秋大会に参加されます

11/22(土)宮川愛由先生が、第72回土木計画学研究発表会・秋大会のスペシャルセッション「土木計画学研究発表会SS6:ノルウェー、透明な世界からの提言 -学会出版に先駆け、計画制度の最終報告-」で発表されます。詳細は以下をご覧ください。

京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座・主催 連続講座「2025年度・レジリエンス━破綻と回復の境界」のお知らせ

京都大学経営管理大学院では、2025年度も「レジリエンス」をテーマに連続講座を開催します。社会や経営の破綻と回復の境界を人文・社会科学・工学など多角的視点から考察します。

第1回


2025年
9月20日(土)
16:00-18:00



浜崎 洋介
京都大学経営管理大学院
レジリエンス経営科学研究寄附講座准教授
文芸批評家


※定員に達しましたので受付を終了しました。
「いき」とレジリエンスー
「おのずから」と「みずから」の
関係をめぐって



第2回2025年
10月18日(土)
16:00-18:00

大場 一央
早稲田大学法学部 非常勤講師


※定員に達しましたので受付を終了しました。
松平定信の国家経営戦略ー
レジリエンスとしての「寛政の改革」


第3回

2025年
11月15日(土)
16:00-18:00


本田 悦朗
京都大学経営管理大学院
レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授


※定員に達しましたので受付を終了しました。
レジリエントな財政・金融政策
【経営管理大学院ポイント付与対象】


第4回
2025年
12月20日(土)
16:00-18:00

施 光恒
九州大学大学院比較社会文化研究院教授


※定員に達しましたので受付を終了しました。
日本で優勢な自律性の理念と
そこから生まれる社会秩序
――その意義と可能性――

第5回2026年
2月21日(土)
16:00-18:00


小川 さやか
立命館大学副学長
立命館大学先端総合学術研究科教授


※定員に達しましたので受付を終了しました。
タンザニアの商人による
窮地の乗りこなし方



第6回
2026年
3月21日(土)
16:00-18:00

川端 祐一郎
京都大学大学院工学科准教授


※定員に達しましたので受付を終了しました。
リスク過敏社会における
「排除」の論理


講義の内容は現時点のものになります。内容は変更になる可能性がございます。

[会 場] 京都大学吉田キャンパス総合研究2号館1階講義室1
※会場が変更となった場合は個別にご連絡いたします。
[時 間] 各回 16:00〜18: 00(開場:15:30 )
[定 員] 100名程度
[対 象] 一般、大学院生、大学生
[参加費] 無料
[申 込] こちらの申込フォームよりお申し込みください。各回とも定員に達し次第、申込を締切とさせていただきます。
[主 催] 京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座  
[協 力] 株式会社経営科学出版
[問合せ] 京大オリジナル株式会社 E-mail:kensyu@kyodai-original.co.jp

連続講座「2024 年度・レジリエンス―⼈間と社会の強靭性を考える」第7回開催レポート

第7回「レジリエンス経営科学研究寄附講座」では、京都大学経営管理大学院の山田忠史教授が「持続可能なビジネスとIT―わが国の物流を題材として」について講義を行いました。交通計画・物流計画の専門家として長年研究に携わってきた山田教授が、最適化計算とAIの関係性、日本の物流が直面する課題、そしてデジタル技術を活用した持続可能な物流システムの構築について多角的に論じました。

近年、トラックドライバー不足や環境問題などの課題に直面する日本の物流業界。その一方で、IOT・ICT・ビッグデータ・AIといったデジタル技術が急速に進展しています。こうした状況の中で、単なる「言葉遊び」に終わらないデジタルトランスフォーメーションとは何か、そして真に持続可能な物流システムをどう構築すべきか――。山田教授は工学的視点とビジネス的視点を融合させながら、これからの物流の在り方を提示しました。

【開催概要】

日 時:2025年3月15日(土)16:00-18:00

登壇者:山田 忠史 京都大学経営管理大学院教授

テーマ:持続可能なビジネスとIT―わが国の物流を題材として

最適化計算とAIの本質

講義の冒頭、山田教授はまず自身の専門である交通計画・物流計画における最適化計算とAIの関係性について解説しました。「AIという言葉が一人歩きしている現状」に対して、AIの本質は「生物の進化や行動を模倣した計算方法の総称」であり、最適化アルゴリズムは、持続可能な都市交通物流システムの設計に応用されていると山田教授は語りました。

「とりあえずAIと言えば何とかなる」という安易な考え方ではなく、本質を理解した上で技術とビジネスを融合させるべきだと山田教授は強調します。「技術を真に理解して、それに基づいてビジネスを立ち上げるという『マネジメント・オン・テクノロジー』の発想が重要だ」と述べ、単なる「マネジメント・オブ・テクノロジー」との違いを明確にしました。

日本の物流が直面する課題

続いて、日本の物流業界が直面する深刻な課題としてトラックドライバー不足の問題が取り上げられました。山田教授が示したデータによれば、ドライバーの数は年々減少しており、全年代で減少傾向にあります。さらに、働き方改革による労働時間短縮も加わり、現在の物流システムの維持が困難になりつつあるのです。

この問題の背景には、1990年代の規制緩和があると指摘します。免許制から許可制への変更により物流業者数が急増した結果、過当競争が生じて運賃が下落。かつては全産業平均よりも高かったトラックドライバーの所得が徐々に低下し、「夢のない商売」になってしまったと分析しました。こうした状況に対して「外国人ドライバーの導入」という解決策が提案されることがありますが、給与水準の国際比較(日本の約400万円に対し米国では2,000万円超)や、言語の問題、高度な物流品質の維持、災害時の対応など多角的な観点から、真の解決にはならないと主張しました。

デジタル技術を活用した新たな物流システム

講義の後半では、デジタル技術を活用した新たな物流システムの可能性について議論が展開されました。まず、デジタイゼーション(電子化)、デジタライゼーション(デジタル化・IT化)、スマート化といった概念の違いを整理した上で、デジタルトランスフォーメーション(DX)は単なるデジタル化ではなく、社会や生活、産業、ビジネスのイノベーションが伴う変革であるべきだと山田教授は強調します。

そして、IOT(モノのインターネット)・ICT(人のネット化)・ビッグデータ・AIという一連の技術が物流にもたらす変革の可能性について語りました。特に注目すべきは「見える化」の実現です。データが取れることで物流の全体像が見えるようになり、部分最適ではなく全体最適、すなわち「ロジスティクス」が可能になるというのです。

この流れの中で登場したのが「フィジカルインターネット」の概念です。インターネットでは情報がどのような経路でやり取りされているかユーザーは気にしないように、物流においても「何で運ばれたか」ではなく「確実に届くか」だけを重視するシステムへの転換を目指しています。山田教授はこれが物流効率化の鍵となり、トラックドライバー不足の緩和や環境負荷の低減につながると説明しました。

レジリエンスと物流の未来

世界の IT 巨人が展開するプラットフォームビジネス(GAFA など)の成功モデルを解説しながら、山田教授は物流版の MaaS(Mobility as a Service)の可能性についても言及しました。交通分野を例に、「アプリを通じて様々な移動手段を選択・予約・決済できるシステム」としてのMaasが登場したように、物流においても輸送手段の最適な選択をアプリ上で一元管理する「物流 MaaS」が構想されています。

こうしたシステムが実現すれば、異なる物流業者間での貨物の共同輸送や、トラック以外の輸送手段(鉄道・船舶)の活用が進み、効率化とともにマルチモーダル化(複数の輸送手段の活用)が図れ、ドライバー不足の緩和・解消していくと説明します。特に災害時においては、普段から複数の輸送手段を活用しておくことが「レジリエンス(強靭性)」につながると強調しました。

講義の締めくくりとして、レジリエンスを「様々なリスク要因に対して、事前に予防策を講じ(頑健性)、事後においては迅速(時間的回復性)かつ効果的(性能的回復性)に回復できる能力」であると定義し、これを物流システムに適用する重要性を語りました。

さらに、「インフラとスープラの融合型ビジネスモデル」の必要性を訴えました。「スープラ」が上部構造、「インフラ」が下部構造を意味するように、AIやデジタル技術といった「スープラ」だけでなく、それを支える物理的な「インフラ」も不可欠であると主張します。「技術(スープラ)を活かすためには強靭な肉体(インフラ)が必要」であり、両者のバランスが取れた発展の重要性を訴えて講義を締めくくりました。

浜崎洋介特定准教授との対談が行われ、持続可能な物流システムの構築に向けた課題と展望について議論が深めます。

この第7回をもって、2024年度「レジリエンス――人間と社会の強靭性を考える」連続講座は終了となりました。全7回を通じて、多角的な視点から人と共同体のレジリエンス力を高めるヒントが提示され、自己と社会を理性的にとらえる力を育む機会となりました。

【2025年3月11日】レジリエンス寄附講座特別セミナー開催のお知らせ

開催日時開催日時:2025年3月11日(火)18:15-20:15(120分)
会場名TODA HALL & CONFERENCE TOKYO
住所・アクセス〒104-0031 東京都中央区京橋一丁目7番1号 TODA BUILDING 4階
JR山手線線・京浜東北線など「東京」駅八重洲中央口から徒歩7分
JR東海道新幹線など「東京」駅八重洲中央口から徒歩7分
東京メトロ丸の内線「東京」駅八重洲中央口から徒歩7分
東京メトロ銀座線「京橋」駅から徒歩3分
東京メトロ銀座線・東西線「日本橋」駅から徒歩5分
都営浅草線「宝町」駅から徒歩7分
参加費無料
定員70名
主催京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座
共催株式会社経営科学出版、京大オリジナル株式会社
申し込み方法参加申し込みは、下記「申し込みURL」よりお申込みください。
※参加申込期限:3月6日(木)17:00まで

※GmailやYahoo!メールなどのフリーメールアドレスをご利用の方、フィルタリング機能を有効にしている方は、削除フォルダ、迷惑メールフォルダもご確認ください。
※携帯メールを使用され、 メール防止フィルターをご利用の場合は、@kyodai-original.co.jpのフィルター解除をお願いします。
問い合わせ先京大オリジナル株式会社 プロジェクトマネジメント部
E-mail:kensyu@kyodai-original.co.jp
申し込みURLこちらをクリック
セミナー内容会社の未来が見えない…
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東大初の経営学博士号を取得した岩尾俊兵先生が
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本質的な知識をあなたにお届けします。
登壇講師 岩尾俊兵(慶應義塾大学准教授)
司会 浜崎洋介(京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座特定准教授)
備考セミナー終了後、10名さま限定での懇親会を予定しております。
岩尾先生もご参加されますので、自社についてのご相談や意見交換をしたい方はぜひご参加ください。

講師詳細

岩尾 俊兵 准教授(慶應義塾大学 商学部)

1989年、佐賀県出身。東京大学博士(経営学)。慶應義塾大学商学部准教授。第73回義塾賞、第36回組織学会高宮賞(論文部門)、第37回組織学会高宮賞(著書部門)、第22回日本生産管理学会学会賞(理論書部門)、第4回表現者賞等受賞。組織学会評議員、日本生産管理学会理事を歴任。

著書に『世界は経営でできている(講談社現代新書)』『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)、『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)、『日本「式」経営の逆襲』(日本経済新聞出版)、『イノベーションを生む「改善」』(有斐閣)ほか。

浜崎 洋介 特定准教授

1978年、埼玉県大宮市(現・さいたま市)出身。東京工業大学博士(学術)。京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座特定准教授。第31回山本七平奨励賞受賞。『表現者クライテリオン』編集委員、すばるクリティーク賞選考委員を歴任。
著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉イロニー・演戯・言葉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫―なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)、『ぼんやりとした不安の近代日本』(ビジネス社)ほか。

連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第4回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第4回では、慶應義塾大学の岩尾俊兵准教授が「価値創造の民主化」をテーマに講義を行いました。岩尾准教授は、東京大学史上初の経営学博士号取得者であり、組織学会評議員や日本生産管理学会理事を歴任し、多数の学術賞を受賞。現在は慶應義塾大学商学部准教授として教鞭を執りながら、2024年11月には東証スタンダード市場上場企業の代表取締役社長に就任するなど、学術と実践の両面で活躍する気鋭の経営学者です。また『世界は経営でできている』(講談社現代新書)や『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)など、経営学の知見を一般読者向けにわかりやすく解説する著作を次々と発表していることでも知られています。

【開催概要】

日 時:2024年11月16日(土)16:00-18:00    
登壇者: 岩尾 俊兵 准教授(慶應義塾大学 商学部)
テーマ:カネの論理とヒトの論理:資本主義の再構築


岩尾准教授は、経営者と労働者の対立、世代間格差、企業不正、凶悪犯罪の増加など、今日の社会における様々な分断の根底には「価値有限」という発想があると指摘します。価値ある資源は限られており、奪い合うしかないという価値有限の考えが、対立を生み出しています。

しかし、地球そのものは数百万年間でほとんど変化していないにもかかわらず、経済は何百何億倍にも成長している事実は、価値創造には無限の可能性があることを示していると岩尾准教授は話しました。
価値が無限だと考えれば、他者は限られた資源を奪い合う敵ではなく、共に新しい価値を生み出すパートナーとなる。この観点から、「他者と自分を同時に幸せにすることを究極の目的として、対立を1つずつ解消し、豊かな共同体を作り上げること」を目指していくことが様々な問題の解決に繋がると話しました。

そして、戦後日本の経験を重要な事例として挙げます。戦後、多くの有形資産が失われた中で、人材が唯一の資源として、「人こそが価値の源泉」という信念に支えられた経営が行われ、高度経済成長を実現できた重要な要因となっていました。
しかし、平成以降、アメリカ式経営が持ち込まれたことで「金で金を生む」発想が強まり、人材は投資の対象から管理・監視の対象となっていった。その結果、日本国内への投資は減少し、代わりに日本は世界一の対外純資産を持つに至ったのだと岩尾准教授は話します。


この状況を打破するために、岩尾准教授は「価値創造の民主化」を提唱しました。これは、経営教育を多くの人々に広く薄く提供することで、誰もが価値創造の担い手となることを目指す考え方です。
たった一人が10倍優秀になるよりも、1000人が1%ずつ改善する方が、複利計算的に組織の成果は大きくなる。研究室の経営、病院の経営、家庭の経営など、経営の概念をあらゆる場面に適用することで、新しい形の豊かな共同体を作ることができると岩尾准教授は説きます。この「価値創造の民主化」は、金融資本主義的な『金の論理』と共産主義的な『人の論理』という二元論を超えて、無限の価値創造と無形の生産手段である知識の共有によって、みんなで豊かになる社会を実現する道筋を示していると強調しました。

最後に、経営学において最も困難な課題の一つは、組織の中で共通の目的を発見することだと岩尾准教授は話しました。しかし、人は「幸せになる」という共通目的を持っているはずで、その目的に向かう仲間として、新しい解決が実現できるのではないかと締めくくりました。